鍛冶屋日記

年: 2016年

春が別れの季節であるということに久しぶりに気づかされた3月の終わりでした。人事異動め。感謝を伝えて楽しく送り出すしかなく。
飲んだ飲んだ。泣いた泣いた。吐いた吐いた。泣いて吐いて寝て起きたらもう新年度始まっちゅうし。窪内さんも遠くに行っちゃいましたよ、花村さん。ずっと一緒に真剣に遊べたらいいのにね。

5年。5年が長いのか短いのか。一年があっと言う間で「あ、朝倉会もう一年やってないやん。」なんて考えると5年もたぶんあっと言う間。

えーと、なぜ5年について考えたかというと5年前に宣言した目標の結果を検証しなくてはならない時が来ました。
2011年のたぶん3月20日に同級生2人の女子の前で発表した目標。その時は書いてないけどそれから後、この時にブログにも書いちゅうね。

「あと5年で高知で一番の刃物屋になる!」

ワンピース的な。
達成出来たなんて全然思ってません。
が、鍛冶屋として仕事として思う方向にはしっかり進めたと思ってます。
取引先の注文に左右されない売上。自分で値段を決められる状態。お客様と直接やり取り出来る態勢。
5年前に「この方向に進めば一番になれるろ」って思ってた道は間違ってなかったと思います。高知で一番にはなってなくてもしっかり結果も出て来たし、このまま進めばもっともっといい感じになる自信はある。
これからきっと大きな大きなピンチな出来事が起こることも簡単に想像がつくけれど、大丈夫。

5年前もこの5年間もこの訳のわからない自信でここまでたどり着けました。

一番をこじつけて考えるなら
・高知で一番小学校時代の同級生と遊びゆう鍛冶屋(25歳からほぼ毎月)
・高知で一番麻雀が好きな鍛冶屋(あー去年の11月からやれてない)
・高知で一番高校の同窓会の壇上でスピーチしゆう鍛冶屋(この一月に5回目達成)
・高知で一番イベントの実行委員長な鍛冶屋(これも3回くらいはやったね)

こうやって限定していけば一番なんて結構あって(調査した訳ではないので2番かも3番かもしれんし、もちろん鍛冶屋の枠を取っ払えばこんな人はいっぱいおるがやろうけど)、そんなせまい範囲の一番でもそれがいくつか積み重なればそれはそれでしっかりオンリーワンになっていくわけで。

そしてそのオンリーワンさが僕らの仕事には大事であって。オンリーワンだから知ってもらえる機会が増える。「鍛冶屋です。刃物作ってます。」を知ってもらうことが大事。印象付け。

単純に「鍛冶屋」より「麻雀が大好きな鍛冶屋」とか「仁淀川を活かして町を元気にする会議に出る鍛冶屋」とかの方が印象付くよね。
もちろん「いつも笑顔」とか「仕事が丁寧」とかも同じこと。

全部全部積み重ねて、自分自身をブランディング。
好きなことやっていろんな場所で楽しんでそうなっていけば最高やと思います。
そうして来たし。

さぁ、5年後どうなっちゅうがやろ。
明るい方が未来です。絶対に。

「見よってください。」

久しぶりにテンションが上がる出来事。

日曜日を振り返ります。
いの町の精鋭が集まりひろめ市場でいの町フェア。観光協会に連れられて紙屋さんやけずり芋屋さんと一緒に出店。


人はどっさりひろめ市場に飲み込まれて行きますが、はさみ屋ブースに立ち寄る人は限られていて、売上は2,800円と3,000円の小さい包丁が2つだけ。

そのうちの3,000円の包丁を買ってくれた方がフランス人でした。外国の方は日本の刃物に興味を持ってくれます。

「これ僕が作ってます!」って伝えたくて
「I am knife maker !」って言ったら
「Me too.」って。

フランスから来たナイフメイカーさんでした。作り手。ビックリ。

それからフランス人と日本人が英語でコミュニケーション。
以下、たぶんこういうこと言ってたんだろうなぁ、の会話です。

「高知にセブンデイズいます。あなたのショップに行ってもいいか?」
「もちろん!」

「あなたのナイフをフランスで売りたい。ビジネスがしたい。大丈夫?」
「OK。是非来てください。」

名刺をもらって名刺を渡す。

本当に来たらおもしろいなぁ、と思ってたら本日ご来店!
奥様と2人のかわいい娘さんを連れたフランス人がはさみ屋に車で乗り付ける。

あらためて
「ビジネス出来ますか?貿易出来ますか?」
「やってみます。トライトライ。」

もうフランスにどうやって送ったらいいかもわからんし。お金のやり取りどうするがやろ。
「アイトライツースタディ」

「ここの包丁、サンプル的に今日持って帰っていい?」
「いいよー。」

「どれくらいで卸せる?」
「この付いちゅう値段の〇〇%で。」

「価格表をペーパーに書いてください。」
「了解!」

で、包丁の種類とサイズと卸価格を一覧表にしてお渡し。

「じゃあ、選ぶね。」って、あれもこれもどんどん出して来て結局13丁。

「うわ、これ持ってっていいとは言ったけどお金は今日くれるって言ったがやろか?後日払うけどいい?って言いよったがやったらどうしよう。まぁ、いいか。」

で、伝票書いて合計「53,300YEN也」

伝票渡すとお財布から日本のお札が出て来て無事お支払いいただいて。

うちの包丁11品目13丁、NAKIRIやDEBAがフランスへ旅立つことになりました。

すごいなぁ。
言葉通じんのにお取引が始まる。

「2週間後にフランスに帰るので、追加注文はE-mailで連絡するね。今後は先に振り込むのでそれから送ってくれたらいい。メールでバンクナンバー教えてね。」

「完全に遊びで日本に来たのにビジネスのお話が出来て良かったー!」って。

以上はあくまで僕がこう理解しましたよ、って会話の内容です。コミュニケーションは困難でしたが、話してる間ずっとワクワクしてました。

レブロン・ステファン。36歳。

サンキューサンキュー。

2週間経ったらフランスでさとる包丁が売られる模様。

日本の高知のいのの鍛冶屋の刃物が少しずつ少しずつ世界へ。オーストラリアに続いての2ヶ国目です。

さぁ、フランス語のメールを読み解いてお返事書ける人を探さんといかんね。

ひろめ市場のいの町フェア、出店して良かったです。2丁だけの売上がすごい結果に化けました。

行ったから出会う。
行かんと会えん。

単純なこと。

先週土曜日に高松で開催された『デザインサミット in 香川』にて事例発表してきました。四国経済産業局さんの「モノづくりとデザインのマッチング事業」の事例発表です。デザインを取り入れた包丁のお話。150人の前で。

150人を前にして話す機会なんてなかなかないきね。
でも、同窓会で20数年ぶりの同級生120人の前で幹事代表のスピーチした時の方が緊張したなぁ。あの時はガクガクやった。その経験も活きちゅうに違いない。

今回は自分の経験してきたことを話すだけやし。

150人に聞いてもらって少しでも一歩踏み出すきっかけになれば、と思って半日かけて台本を書いたのでここでも発表しときます。
内容は「いいことばっかりやったよー。みんなもどんどんやればいいよー。」です。

与えられた時間15分の原稿です。
長いですけど、ご興味あればご一読ください。

【自己紹介】
みなさんこんにちは、高知県で鍛冶屋をやってます、刃物を作ってます、笹岡鋏製作所の笹岡悟です。
モノづくりとデザインのマッチング事業の事例発表ということで本日お話しさせて頂きます。よろしくお願いします。

【自社紹介】
まず当社の紹介ですが、父が大阪の堺で修行して46年前に現在の工場のある高知県いの町で独立。
もともとは生花鋏や刈込鋏を作り、ほぼ100%を問屋さんや小売店さんへの卸しで成り立ってました。

そこに自分が19年前に弟子入りして二人で作るようになりましたが、ちょうどバブルの崩壊やホームセンター全盛の時代で安価なステンレス製品や機械で作った大量生産の製品に押され、注文や売上は年々減少していました。

その売上減少を埋めるために鋏以外の刃物、包丁・鉈・鍬なども作るようになり、工場の隣をお店にしてイベントや定期市への出店やHPでの販売などお客様と直接繋がる場面を強化するとともに研ぎ直しや柄の付け替えなどのメンテナンスも父の時代からやってましたので「なんでも作るしなんでも直す」という強みをアピールしてなんとか仕事してきました。

【土佐打刃物の説明】
土佐打刃物とは400年の歴史を持つ高知県の伝統産業で、いわゆる鍛冶屋さんが作る手打ちの刃物なのですが、機械で作ったものとの違いとしては品質の良い鋼を職人が叩いて作ることによって出る、耐久性・耐摩耗性、つまり切れ味が長持ちするという点です。

弱点は錆びること。やはり錆びるのを嫌う人は多く、錆びないステンレス製品が普及することで、土佐の刃物は売れなくなってきています。

【時代】
ただ時代としては、「安いものを使い捨て」を通り過ぎ「良いものを長く使う」
「高品質のものをメンテナンスしながら大切に使いたい」という人が増えていることは実感しています。
問題はそういう人たちにどう届けるか、どう知ってもらうか。

「僕が作ってます、親父と二人で」これが最強の説得力であって、農家さんが顔と名前を付けて野菜やお米を売っているように職人が顔を出し直接お客様とやりとりして「錆びます」ということも含めて説明しながら売っていく・買ってもらうを繰り返していく中で、選んでもらえる自信は出来てきました。
事実、卸の仕事は今も順調に減ってますが、直接買ってもらったり研ぎ直しを頼んでいただけるお客様は確実に増えてきてます。

なので、今回四国経済産業局さんからお話をいただいた時も起死回生を狙って取り組んだ感じではなく、デザインを取り入れることに興味はあったし、払える範囲の費用で出来るならやってみます、という感じで始めました。

【事業開始・打ち合わせ】
デザイナーの平原さんとのやりとりの中で、今の自分の仕事において足りないところは、と考えた時に出てきたのは「若い女性に興味を持ってもらいにくい」ということでした。
男性は刃物に興味を持つ人が多く、また50代60代くらいの少し上の年代の女性なら、錆びるのが嫌でステンレスを使ってはいるがお母さんやおばあちゃんが昔使っていたので鋼の包丁の良さは知っているという人も多いです。

ただ使い捨ての時代しか知らない若い世代、特に女性はイベント先でもほとんど立ち止まってもらえない状況でした。

少しでも興味を持って立ち止まってもらえてお話しができれば、使い方やメンテナンスの仕方、鋼の刃物の良さなどをお伝えすることができるのだけれど、20代30代の女性はほとんど素通り。

そこをどうにか出来たらいいね、というのが課題として浮かんできました。

ここからの開発の経緯やコンセプトはデザイナーさんから説明いただきます。

〈デザイナーさんの説明パート〉

【出来上がり】
かわいい、素敵に完成しました。

【ここからは値段設定】
手間をかけて作ってもらった柄と段ボールのパッケージにはお金がかかって従来と違う柄の取り付けにも手間が余計にかかるので値段は高くなります。
倍ぐらいで売ろうと思ってましたが、2.5倍になりました。
同じサイズ同じ仕上げの従来の包丁が6000円。
デザイン入れて家具職人さんに作ってもらった柄に代わるだけで15000円。
良いと思えるものは出来たけれど、果たしてこれで売れるのか、選んでもらえるのか、という気持ちはありました。

でも、これが売れます。

【売上実績】
買いに来てくれた人や出店先で興味を持ってくれたひとには「中身同じですよ。材質も研ぎも同じ。」って言いながら売ってますが、このドットとストライプを選んでもらえる人もしっかりいます。
実際の売上の数としては販売開始から2年半でストライプが51丁・ドットが47丁。

工場併設の自社店舗と並べてもらっているアンテナショップ2軒(いの町と高知市)、あとはイベント出店先での販売がほとんどですので2年半で100丁は充分な手応えです。

さらに言えばこの100丁を買ってくれた方のほとんどはこれでなければうちの品を買ってない人達です。
切れ味や評判を聞いてきた人ではなく、このデザインに惹かれて、使いたくなったり、誰かにプレゼントしたくなった人ばかりだと思います。
そういう顧客を掘り起こしてくれたデザインです。

ここで注目すべきはうちの仕事は変わってないということです。
今まで通り、精一杯良い刃物を作る、切れる刃物を作ってるだけ。新しい形や機能を作り出した訳でも新素材に取り組んだ訳でもないってこと。

なのに、当初の目的であった「若い女性に立ち止まってもらえない」を克服し「あーかわいいー」って足を止めてもらえる確率は圧倒的に増えました。
それで一目ぼれで買ってもらえることもありますし、その場で売れなくても足が止まってお話しをする、うちのチラシを渡すことで「刃物=笹岡鋏製作所」という印象付けは出来ます。
包丁の研ぎ直しを頼みたくなった時、次に包丁を買い替えようと思った時に思い出してもらえる。これだけでこの事業に取り組んで良かったです。

【さらに良かったこと】
これは他の業種で同じことが起こるかはわかりませんが、鍛冶屋という時代遅れの昔ながらの職人の世界の人間がデザインを取り入れたことで、たくさんのメディアが取り上げてくれました。
四国経済産業局さんの事業というのも追い風になったと思います。
新聞・雑誌・テレビ・フリーペーパーに取材をしてもらい、地元いの町の公式観光パンフレットにも町の特産品として写真付きで紹介してもらってます。
全部無料であちこちで宣伝してもらえました。
地元のローカルなメディアですのでそれによってドカンと売れ出すわけではありませんが、先ほど言った印象付けの効果はあったでしょうし、もっと大きなのは今までのお客さんから「新聞でちょったね」「テレビみたよー」って人が結構いて従来のお客さんやお得意さんからの信頼度アップの効果もあったと思います。

こういう実際の売上以外の効果もありました。

【デザインに取り組んだ感想】
このようにデザインを取り入れた仕事をして良かったと思いますし、特に伝統工芸なんかはデザインとの相性はいいのではないかと思います。
もともと技術はあって品質の良いものが作られているのだから、そこにデザインが入って新しい層に向けて発信する、これ大事・有効。

【さらに!】
もう一点、今自分が一番良かったと思うことを付け加えます。
それは、平原さんというデザイナーさんと出会えたこと。
この包丁が出来上がったあと、再び一緒に「子供向け包丁の開発」に取り組み、同じシリーズで少し小さめのこの2種類が出来上がりました。こちらも約30丁売れてます。

アンテナショップなんかで4つ並ぶと2つの時とはまた見栄えも違ってきました。

その後、一昨年の秋に店舗改装の際に、看板のデザインをお願いして、そのあと名刺のデザインも包丁の箱に入れたいと考えていた取扱い説明書のデザインも作ってもらいました。

【ここから一番言いたかったこと】
何か新しいことをする時に、デザイン使えんかなあと考えるようになり、その度に平原さんに相談して依頼する。
気軽に相談出来るデザイナーさんがいる、そのデザイナーさんがうちの仕事の内容や仕事に対する姿勢をしっかり理解してくれている。
こんなに心強いことはありません。
それが積み重なっていくことで商品も看板も名刺も全部トータルで「笹岡×平原」のイメージが出来上がっていって、その先に笹岡鋏製作所のブランドが出来上がって行けばいいなあ、出来上がって行くんじゃないかなあ、と思ってます。

いいことばっかり言いましたが、ホントにいいことばっかりでした。
チャレンジして良かったです。。
最後にこの事業のきっかけを作ってくれた四国経済産業局さんにも本当に感謝しています。

以上です。
ありがとうございました 。

うん、どんどんやればいい。

「ここは立地がいいですね。」

ある業者さんが来てお話ししている時に、別のお客さんがふらっと来て
「ここは包丁あるー?」
あ、初めてのお客さん。
「ありますよー。」
「おー、じゃあこれちょうだい。」
「ありがとうございます。」

のやり取りを見て業者さんに言われた一言。
「ここは立地がいいですね。」

ちょっと引っかったので書いてます。
立地はいい。ある程度大きな道に面していて交通量も多いしお店の前には何台も車が置ける天然の駐車場もある。高知市内からも近い。

でも、お客さんに知ってもらって来てもらって買ってもらうまでたどり着くには立地だけじゃいかんやん。それ以外の努力や工夫が絶対必要で、だからそんなことばっかりやってきました。

それを見ずに今包丁が売れたのは「立地のおかげ」ってされたことにちょっとカチン。「もし工場がここになかったとしてもしっかり勝負してます。」って言いたくなりました。そんなこと言っても「恵まれちゅうき言えるがよ。」って思われて終わりやろうけど。

たしかに自分でも思います。「親父さん、45年前にここに工場建ててくれてありがとう。」
結局言われる人によって受け止める印象が違うがやろうなぁ、と思いました。同業者でも違う業種の人でもきちんと頑張ってる人に言われたら「そうやろ!俺も恵まれちゅうと思う!」で終わったはずや。

そんな小さなイライラを書きながら今年初めてのブログなので今年の目標書いときます。
①仕事量を減らす
②土曜日に同級生の前で発表した今の目標を実現する

②をやるために①を達成する必要がある。
やっぱり仕事帰りに本屋さんに寄って立ち読みする時間もないくらい働きよったらいかんがよ。ブログ書く時間も取れんほど洗面器に顔浸けっぱなしで働く感じ。したいこと出来んし、したいことが生まれて来んなる。隙間が必要。

そして②、また言っちゃいました。
高校の同級生との飲み会でみんなが目標や今したいことを話す流れの中で2、3年前からなんとなく考えていた目標を口に出す。カッコつける。
5人の前で言っちゃったのでまたやらざるを得んなりました。

ここで言うのはちょっと恥ずかしいので実現出来たら発表します。

でもねぇ、44歳同級生、みんないろいろ考えゆうがよね。個人事業主、公務員、会社員、お母さん、それぞれ違った立場や仕事を持っていて目標も仕事のこと自分のキャリアのことプライベートのこと、いろいろやけど。集まったみんながしっかり考えていてそこに向かってしっかり進んでいて、うれしくなりました。

負けないように進みたいと思います。

2024年11月
« 10月    
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  
最近の記事 最新コメント