鍛冶屋日記

日: 2016年3月11日

先週土曜日に高松で開催された『デザインサミット in 香川』にて事例発表してきました。四国経済産業局さんの「モノづくりとデザインのマッチング事業」の事例発表です。デザインを取り入れた包丁のお話。150人の前で。

150人を前にして話す機会なんてなかなかないきね。
でも、同窓会で20数年ぶりの同級生120人の前で幹事代表のスピーチした時の方が緊張したなぁ。あの時はガクガクやった。その経験も活きちゅうに違いない。

今回は自分の経験してきたことを話すだけやし。

150人に聞いてもらって少しでも一歩踏み出すきっかけになれば、と思って半日かけて台本を書いたのでここでも発表しときます。
内容は「いいことばっかりやったよー。みんなもどんどんやればいいよー。」です。

与えられた時間15分の原稿です。
長いですけど、ご興味あればご一読ください。

【自己紹介】
みなさんこんにちは、高知県で鍛冶屋をやってます、刃物を作ってます、笹岡鋏製作所の笹岡悟です。
モノづくりとデザインのマッチング事業の事例発表ということで本日お話しさせて頂きます。よろしくお願いします。

【自社紹介】
まず当社の紹介ですが、父が大阪の堺で修行して46年前に現在の工場のある高知県いの町で独立。
もともとは生花鋏や刈込鋏を作り、ほぼ100%を問屋さんや小売店さんへの卸しで成り立ってました。

そこに自分が19年前に弟子入りして二人で作るようになりましたが、ちょうどバブルの崩壊やホームセンター全盛の時代で安価なステンレス製品や機械で作った大量生産の製品に押され、注文や売上は年々減少していました。

その売上減少を埋めるために鋏以外の刃物、包丁・鉈・鍬なども作るようになり、工場の隣をお店にしてイベントや定期市への出店やHPでの販売などお客様と直接繋がる場面を強化するとともに研ぎ直しや柄の付け替えなどのメンテナンスも父の時代からやってましたので「なんでも作るしなんでも直す」という強みをアピールしてなんとか仕事してきました。

【土佐打刃物の説明】
土佐打刃物とは400年の歴史を持つ高知県の伝統産業で、いわゆる鍛冶屋さんが作る手打ちの刃物なのですが、機械で作ったものとの違いとしては品質の良い鋼を職人が叩いて作ることによって出る、耐久性・耐摩耗性、つまり切れ味が長持ちするという点です。

弱点は錆びること。やはり錆びるのを嫌う人は多く、錆びないステンレス製品が普及することで、土佐の刃物は売れなくなってきています。

【時代】
ただ時代としては、「安いものを使い捨て」を通り過ぎ「良いものを長く使う」
「高品質のものをメンテナンスしながら大切に使いたい」という人が増えていることは実感しています。
問題はそういう人たちにどう届けるか、どう知ってもらうか。

「僕が作ってます、親父と二人で」これが最強の説得力であって、農家さんが顔と名前を付けて野菜やお米を売っているように職人が顔を出し直接お客様とやりとりして「錆びます」ということも含めて説明しながら売っていく・買ってもらうを繰り返していく中で、選んでもらえる自信は出来てきました。
事実、卸の仕事は今も順調に減ってますが、直接買ってもらったり研ぎ直しを頼んでいただけるお客様は確実に増えてきてます。

なので、今回四国経済産業局さんからお話をいただいた時も起死回生を狙って取り組んだ感じではなく、デザインを取り入れることに興味はあったし、払える範囲の費用で出来るならやってみます、という感じで始めました。

【事業開始・打ち合わせ】
デザイナーの平原さんとのやりとりの中で、今の自分の仕事において足りないところは、と考えた時に出てきたのは「若い女性に興味を持ってもらいにくい」ということでした。
男性は刃物に興味を持つ人が多く、また50代60代くらいの少し上の年代の女性なら、錆びるのが嫌でステンレスを使ってはいるがお母さんやおばあちゃんが昔使っていたので鋼の包丁の良さは知っているという人も多いです。

ただ使い捨ての時代しか知らない若い世代、特に女性はイベント先でもほとんど立ち止まってもらえない状況でした。

少しでも興味を持って立ち止まってもらえてお話しができれば、使い方やメンテナンスの仕方、鋼の刃物の良さなどをお伝えすることができるのだけれど、20代30代の女性はほとんど素通り。

そこをどうにか出来たらいいね、というのが課題として浮かんできました。

ここからの開発の経緯やコンセプトはデザイナーさんから説明いただきます。

〈デザイナーさんの説明パート〉

【出来上がり】
かわいい、素敵に完成しました。

【ここからは値段設定】
手間をかけて作ってもらった柄と段ボールのパッケージにはお金がかかって従来と違う柄の取り付けにも手間が余計にかかるので値段は高くなります。
倍ぐらいで売ろうと思ってましたが、2.5倍になりました。
同じサイズ同じ仕上げの従来の包丁が6000円。
デザイン入れて家具職人さんに作ってもらった柄に代わるだけで15000円。
良いと思えるものは出来たけれど、果たしてこれで売れるのか、選んでもらえるのか、という気持ちはありました。

でも、これが売れます。

【売上実績】
買いに来てくれた人や出店先で興味を持ってくれたひとには「中身同じですよ。材質も研ぎも同じ。」って言いながら売ってますが、このドットとストライプを選んでもらえる人もしっかりいます。
実際の売上の数としては販売開始から2年半でストライプが51丁・ドットが47丁。

工場併設の自社店舗と並べてもらっているアンテナショップ2軒(いの町と高知市)、あとはイベント出店先での販売がほとんどですので2年半で100丁は充分な手応えです。

さらに言えばこの100丁を買ってくれた方のほとんどはこれでなければうちの品を買ってない人達です。
切れ味や評判を聞いてきた人ではなく、このデザインに惹かれて、使いたくなったり、誰かにプレゼントしたくなった人ばかりだと思います。
そういう顧客を掘り起こしてくれたデザインです。

ここで注目すべきはうちの仕事は変わってないということです。
今まで通り、精一杯良い刃物を作る、切れる刃物を作ってるだけ。新しい形や機能を作り出した訳でも新素材に取り組んだ訳でもないってこと。

なのに、当初の目的であった「若い女性に立ち止まってもらえない」を克服し「あーかわいいー」って足を止めてもらえる確率は圧倒的に増えました。
それで一目ぼれで買ってもらえることもありますし、その場で売れなくても足が止まってお話しをする、うちのチラシを渡すことで「刃物=笹岡鋏製作所」という印象付けは出来ます。
包丁の研ぎ直しを頼みたくなった時、次に包丁を買い替えようと思った時に思い出してもらえる。これだけでこの事業に取り組んで良かったです。

【さらに良かったこと】
これは他の業種で同じことが起こるかはわかりませんが、鍛冶屋という時代遅れの昔ながらの職人の世界の人間がデザインを取り入れたことで、たくさんのメディアが取り上げてくれました。
四国経済産業局さんの事業というのも追い風になったと思います。
新聞・雑誌・テレビ・フリーペーパーに取材をしてもらい、地元いの町の公式観光パンフレットにも町の特産品として写真付きで紹介してもらってます。
全部無料であちこちで宣伝してもらえました。
地元のローカルなメディアですのでそれによってドカンと売れ出すわけではありませんが、先ほど言った印象付けの効果はあったでしょうし、もっと大きなのは今までのお客さんから「新聞でちょったね」「テレビみたよー」って人が結構いて従来のお客さんやお得意さんからの信頼度アップの効果もあったと思います。

こういう実際の売上以外の効果もありました。

【デザインに取り組んだ感想】
このようにデザインを取り入れた仕事をして良かったと思いますし、特に伝統工芸なんかはデザインとの相性はいいのではないかと思います。
もともと技術はあって品質の良いものが作られているのだから、そこにデザインが入って新しい層に向けて発信する、これ大事・有効。

【さらに!】
もう一点、今自分が一番良かったと思うことを付け加えます。
それは、平原さんというデザイナーさんと出会えたこと。
この包丁が出来上がったあと、再び一緒に「子供向け包丁の開発」に取り組み、同じシリーズで少し小さめのこの2種類が出来上がりました。こちらも約30丁売れてます。

アンテナショップなんかで4つ並ぶと2つの時とはまた見栄えも違ってきました。

その後、一昨年の秋に店舗改装の際に、看板のデザインをお願いして、そのあと名刺のデザインも包丁の箱に入れたいと考えていた取扱い説明書のデザインも作ってもらいました。

【ここから一番言いたかったこと】
何か新しいことをする時に、デザイン使えんかなあと考えるようになり、その度に平原さんに相談して依頼する。
気軽に相談出来るデザイナーさんがいる、そのデザイナーさんがうちの仕事の内容や仕事に対する姿勢をしっかり理解してくれている。
こんなに心強いことはありません。
それが積み重なっていくことで商品も看板も名刺も全部トータルで「笹岡×平原」のイメージが出来上がっていって、その先に笹岡鋏製作所のブランドが出来上がって行けばいいなあ、出来上がって行くんじゃないかなあ、と思ってます。

いいことばっかり言いましたが、ホントにいいことばっかりでした。
チャレンジして良かったです。。
最後にこの事業のきっかけを作ってくれた四国経済産業局さんにも本当に感謝しています。

以上です。
ありがとうございました 。

うん、どんどんやればいい。

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